空調服の歴史と普及に至った背景について

空調服は高温の環境でも涼しさを感じながら働くことができる作業服として広く普及していますが、開発当初は決して性能が良いとは言えず、市場でもなかなか受け入れられなかったのが実状でした。しかし、様々な理由によってその性能が評価されるようになり、夏の作業服と言えば空調服というイメージが定着するに至ったのです。

空調服の歴史や広く受け入れられた理由について学びましょう。

空調服は高いもの?セールを上手に利用してみては

エアコンの代用品として考案されたのがきっかけ

空調服は専用の小型ファンによって衣服の内側に風を送り込み、空気の層を形成することで遮熱性を持たせる作業服です。一般的な名称として使われていますが、本来は民間企業である株式会社空調服が開発した商品です。空調服が作られるきっかけとなったのは当時のスタッフによる東南アジアの観光旅行でした。

旅先が高温だったことから「東南アジアに住む人すべてがエアコンを使うようになったらエネルギー危機が生じるのでは」と考えるようになり、エアコンの代用品となる涼しい衣服の開発に着手したのです。当初は宇宙服のような水冷式の保温機能を持たせた物でしたが、コストがかかることや開発そのものが難しかったことからファンで風を送る空冷式に変更されました。

幾度かの改良を経て、平成16年に空調服が初めて市場に売り出されました。空調服を着ることによってエアコンが無い場所でも汗をかかずに仕事ができることがアピールされましたが、その性能は決して消費者が満足できるものではありませんでした。

初期型の空調服は市販の乾電池を電源にする作りでしたが、電池の消耗が激しいので頻繁に交換する必要がありました。その割には出力が弱く、空気の層も薄く不安定で十分な遮熱性が得られなかったのも問題視された点のひとつです。

また、空調服をエアコンのような涼しい風を送る衣服と誤解する人も少なくなかったため、着ても涼しくないとクレームが来たこともありました。

不評だった空調服が自然災害によって高く評価される

販売当初の空調服は一着で約2万円ほどでしたが、当時の一般的な作業服は高級品でも1万円ほどでした。

そのため、値段ばかり高くてまったく涼しくない作業服と酷評されていたのも事実です。市場では決して人気があるとは言えない空調服の評価が大きく変わったのは平成23年の東日本大震災からとされています。

この自然災害によって日本の電力供給が非常に不安定な状態になり、各地で計画停電が行われるようになりました。気温が上昇する夏季にエアコンが使用できないケースも多々あり、そのような状況から暑さを感じない空調服が注目されるに至ったのです。

空調服の仕組みが正しく理解されるようになったのも需要の増加に拍車をかけた要因のひとつと言えるでしょう。空調服があれば夏でも汗をかかずに仕事ができると口コミが広がり、販売当初の不評から一転、飛ぶように売れました。

従来の暑さ対策はエアコンなどの冷房機器に頼るのが普通であり、電源を確保できない環境では我慢する以外の方法は無かったと言っても過言ではありません。そのような中、着るだけで暑さを感じなくなる空調服はまさに理想的な衣類であり、過酷な環境で働く人の必需品になったのは自然な流れと言えるでしょう。

工事現場や工場など、体を動かすことが多い職場で働く人に高く評価された他、空調服に付属しているファンの性能も向上したことからさらに知名度が上がりました。電源も乾電池式から専用のバッテリー式に変わり、長時間使用が可能になったことも普及を後押ししました。

様々なメーカーが空調服を販売している

空調服は株式会社空調服の商品名であり、厳密に言えば他メーカーが販売している類似品を空調服と呼ぶのは正しくありません。しかし、衣服の内側に風を送って空気の層を作り、外気の温度を遮断する仕組みの作業服を意味する一般的な名称として広く使われているのが現状です。

空調服を他メーカーが販売するようになったのは平成29年、株式会社空調服と株式会社サンエスの諍いがきっかけとされています。当時、サンエスは空調服から商品の製造を委託されていました。しかしサンエスが自社こそが商品の元祖であると主張し、空調服はサンエスの主張を真っ向から否定しました。

双方の言い分は平行線をたどり、結局は物別れという形で終わったのです。サンエスはその後、空調服の仕組みを持つ作業服を空調風神服の名称で販売しました。初めて登場した類似品ですが、その性能は本家である空調服の商品と比べてもそん色のない、使い勝手が良いものでした。

やがて工具メーカーのマキタやリョービが空調服の販売事業に乗り出し、株式会社バートルはエアークラフトの名称で空調服の販売を行ったことにより、複数のメーカーが競争する状態に至ったのです。

需要の増加による空調服の変化

空調服が売れた理由として市場の需要にマッチしたことが挙げられます。電源を確保できない環境でも涼しく過ごすことができる空調服は、自然災害による停電のリスクが大きい日本において理想的な作業服と言っても過言ではありません。

販売当初は一般的な作業服に送風用のファンを取り付けただけのシンプルな作りでしたが、需要の増加に伴い、様々な用途に特化した商品が販売されるようになりました。防塵や耐電など、特殊な用途に対応できる空調服が開発されたことでさらに広く普及した他、おしゃれなカジュアルウェアとしても受け入れられた事実も無視できません。

実用品である作業服がおしゃれ着として認知されたことで、空調服にもファッション性が求められるようになったのです。

空調服は用途と着心地で決めるのが正しい選び方

平成16年の第一号販売以来、様々な空調服が市場に出回るようになりました。有名メーカーの商品は機能性の高さや着心地の良さから高級ブランドのように扱われている物もありますが、作業を快適に行うための実用品であることを忘れてはいけません。

空調服を購入する際は用途に適した生地が使われている物を選ぶ他、自分の体に丁度良いサイズであることを確認するのが長く着続けるための心得です。

空調服の歴史は日本の夏を快適に過ごすために尽力した歴史

空気の層を作って衣服に遮熱性を持たせる空調服は、冷房が使用できない環境でも快適に過ごすための作業服として広く普及しています。環境の変化によって日本の夏は気温が上昇している他、自然災害によって停電になり、冷房が使用できないおそれもあります。

そのような状況に役立つ空調服は暑い夏を如何に乗り切ろうかと尽力した人々の知恵と熱意の結晶と言えるでしょう。